2023年11月7日 更新

元湯陣屋 再建の道のり

新宿から小田急線で約1時間。神奈川県秦野市の温泉郷、鶴巻温泉にあるのが大正7年創業の老舗旅館「陣屋」です。約100年の歴史のある陣屋ですが、2009年、3代目急逝で急遽4代目に就任した私が経営を引き継いだ当時は、10億の借金を抱え経営不振のため存続の危機に瀕していました。そんな陣屋の再建はとにかく試練の連続でした。

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危機的な経営状態

私は元々ホンダのエンジニアとしてキャリアを積んでいました。しかし2009年、実家である旅館・陣屋のオーナーを務めていた父が他界。女将の母も入院してしまった上、リーマンショック後の売り上げ低迷などで大赤字に陥った陣屋は、負債約10億円という倒産の危機に瀕していました。

家業を継ぐつもりは全くなかったのですが、「生まれ育った旅館を残したい」という強い思いから旅館を継ぐことを決意しました。

修業期間や引き継ぎもない中での社長交代でしたが、旅館存続には短期間での業績改善が求められており、再建はとにかく試練の連続でした。なにせ旅館の経営情報がまったく一元化されていなかったのです。例えば顧客情報は入院中の前女将(母)の頭の中だけ、営業情報は営業担当の手帳の中だけにある。予約台帳はネットと紙の2つあって、かつPCを使える担当者は1人だけ...といった状況でした。原価も人件費も月次管理だったので、月末に締めてみたら赤字だったというようなことも起きていました。

経営赤字の原因は?

赤字の原因のひとつは、非効率的でムダの多いオペレーションにありました。

たとえば予約は完全にアナログでした。エージェントからの予約のメールが届いたら、まず紙に印刷してから台帳に転記する。部屋割りは手作業で、その情報は当日、再び紙に書き写して従業員に配る。一連の作業のために、フロントには4人の従業員が必要でした。

部屋割りやその他情報は、紙に書いて昼礼や夕礼で共有し、昼礼・夕礼は一回10分~15分。しかし、急な業務で途中で抜ける従業員も多く、そもそも紙に書ける情報の量には限りがあります。従来のやりかたでは、手間と時間がかかる上に、抜けや漏れが相次いでいました。

バックヤードでの仕事に時間を取られすぎ、肝心の接客になかなか時間が割けていなかったのです。

4つの経営改善ポイントを決定

売上アップと経費削減を実現するため、大きく4つの経営改善ポイントを決定しました。

1つ目は「情報の見える化」。
「これは○○さんじゃないと分からない」というような、個人所有になっている情報を全体共有に変えること。

2つ目はPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)の高速化。
原価や人件費・予実管理などは月次管理から日次管理にしていくこと。

3つ目は「情報は持つだけではなく活用させる」。
顧客の過去の詳細な利用履歴を活用し、おもてなしの向上や次回の営業機会につなげる。

4つ目は日々の仕事を効率化し、お客様との接点を増やす。社内会議をできるだけ減らすなど、非生産的な業務から生産的な業務へ、またアナログからデジタルへの移行です。

いずれも製造業では当たり前のことですが、旅館においては旧態依然としたやり方が当たり前になってしまっており、これをなんとかすることがスタートと考えました。

基幹システムを独自開発

これらの方針のもと、経営改革を実現するためには、バックヤードの効率化と従業員の情報の共有が必要不可欠だと考えました。

しかし、これらの要件を実現でき、かつ陣屋で導入可能な基幹システムは当時世の中に存在しなかったため、検討の末にシステムエンジニアを1名採用して、世界シェアNo.1のクラウドプラットフォーム「Salesforce」をベースに社内で独自開発することを決めました。そのシステムが『陣屋コネクト』です。

元湯陣屋:Salesforce導入で、老舗旅館のきめ細かな社内連携やお客様へのサービスが可能に

元湯陣屋:Salesforce導入で、老舗旅館のきめ細かな社内連携やお客様へのサービスが可能に

IT導入の効果は?

IT導入の効果は劇的でした。予約は全て自動化し、お客様がネットで予約すればその瞬間に部屋割りまで自動で決まります。かつて4人必要だった予約業務も、今では従業員ほぼ1人でこなせるまでになりました。
また、顧客情報はクラウド上に集約され、従業員はタブレットで知りたい情報をいつでもどこでも閲覧できるようになりました。紙を配る必要もなくなったため、昼礼・夕礼も廃止。情報が確実に伝わるようになり、抜けや漏れもなくなったのです。
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オーナー 宮崎 富夫 オーナー 宮崎 富夫

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